<原文>
二十五日、まだ夜ふかく出でぬ。続松ともして行くに、大路は、斑に、雪今もふる。二里ばかり行きて、夜もほのぼのと明けぬ。松の上などはさらなり、刈り田のあと、あやうき家の垣さへいとをかしと見ゆ。この面かの面、ただ白妙なるが、朝の光にまじはりあひたる、たとへんかたなく、我が世の外にゆくここちす。故郷にては稀なる雪ぞかしと、めづらかなるものから、従者の足もといかに冴えゆらんと、いとはしくて、とく晴れよかしと思はるる。巳過ぐる頃、雪やみて、日はなやかにさしいでたれば、道もいととく乾きぬ。皆々よろこびてゆく。
<現代語訳>
二十五日、まだ夜中だったが出発した。たいまつをともして行っていると、大通りは雪がはらはらとまだらに降り積もっていて、雪が今も降り続けている。八キロメートルほど歩いたころ、夜もほのぼのと明けた。松の上など(に雪が降り積もった様子)は言うまでもないが、刈り取りの済んだ田、粗末な家の垣根までもたいへん趣深く見える。あちらこちらも一面ただ白一色であるのが、朝の光に混じり合っていく情景は、他のものにたとえようもなく、この世のものではない心地がする。故郷ではめったに降らない雪なのになあと珍しく思うけれど、従者の足がどんなに冷えることだろうと、いやになって、早く晴れるといい思われる。午前十時すぎ、雪が止んで、太陽が明るく射し始めたので、道も大変早く乾いた。一行は皆喜んで(旅の)道を続けた。
横井の総評
「東海紀行」という旅の古典です。
「従者の足もといかに冴ゆらん」という筆者の心遣いや「道もいととく乾きぬ」ということを旅の途中で皆が喜んだ所に、道中の一体感が感じられます。
また、「夜もほのぼのと明けぬ。」からの古文に、一つ旅の雪景色に対する感動が表れています。