松平定信

「花月草紙」

<原文>
「友にまじはるは、いかなることか心得べき。」と問ふに、「友はその長所を友とすべし。武技好む者には、それを友とし、歌よむ者には、それをともとするぞきよ。世の中に、同じこころの人いふものは、いとまれなることなるべし。ただわが好めるかたに引きいれんとするもうるさし。この人、このところは長じぬれど、ここはいとみじかし。そのみじかきところを引きのべんとするは、いとくるし。知己の人ことばを求めなば、もとよりいふべし。されど、しばしばすべきにあらず。浅き契りの友なりとても、友といふうちならば、その人のうへの存亡にかかはることならば答へる。ただその長所を友とすれば、まじはりがたき人もあらじ。」と答へき。

花月草紙



<現代語訳>
「友人とつきあうときには、どんなことを心がけたらよいだろうか。」と聞いたところ、「友人の長所を友とするとよい。武芸を好む友人なら、それ(=武芸)を友とし、歌を詠む友人ならそれ(=歌を詠む)を友人とするとよい。世の中に、(自分と)同じ心の持ち主がいるということは、とてもめずらしいことだろう。ただ自分の好む方に(友人を)引き入れようとすることもむずかしい。この人はここの部分はよいけれど、ここの部分はよくない。(だからといって、)そのよくないところを改めさせようとすることはたいそう苦しい。(けれども、)自分をよく知っている友人が忠告を求めたならば、当然いってやるべきである。そうではあるが、たびたびすることではない。つきあいの浅い友人であっても、友人という(間柄)ならば、その人の生死に関するような大切なことならば、いってやるべきである。ただその長所を友とすれば、つきあいにくい人もないだろう。」と答えた。

横井の総評

人間関係に悩んだのは江戸時代も今も同じであるようです。友の長所や人の長所をみて付き合えばうまくいくと、古典は教えてくれています。